「こんばんわ。おにーさん。今日は冷えますね」
俺はトレンチコートに毛糸の手袋。
マフラーまで巻いて、防寒対策はバッチリだ。

それでも寒いのだから、毛糸の二ット一枚の彼女は、
比にならないほど、冷えるのだろう。実際、指先が小刻みに震えている。

「こんばんは。冷えますね。えっと、もしかして一人？」

あたりを見回しても、誰も気にした様子がない。
みんな自分のことで精一杯で、他人を気遣う余裕などないのだ。

「パパとはぐれちゃったぁ」
「え……」
「ぷ…ふふっ。なんて、じょーだんですよぉ。わたしこー見えて、成人してますよ？」
「ああ、なんだ…なら、どうしてこんなトコで？」
「なーんか、疲れちゃって。おにーさんもお仕事帰りですか？」
「そうだけど…。ああ、ちょっと待ってて」

近くの自販機で、コーンポタージュとミルクティーを買って戻ってきた。
「どっちがいい？」
「じゃあ…コーンポタージュで」

シャコシャコと缶を振り、プルタブを抜くと、小気味よい音が耳朶に響いた。
コクッコクッと、喉が鳴る。
すると、ひっぐ…ひっぐと続き、やがて泣き始めた。
透明な雫が頬を伝い、地面にシミを作る。

「…っく、…ぅぅっ…ん゛ぅぅぅ～っ」
「わ、わ。どうしたの、そんな熱かった！？」
「ちがい…ますぅ…温かすぎるのがイケないんです…っ、ひっぐ」

何も言わず、グッと彼女を抱きしめる。
すると、胸のなかに優しい温もりが広がってゆく。

「泊まる家…ないんです」

ああ、そういうこと、か……
手を取って、ポケットに入れた。
ギュッと小さな手が、掴んで離さない。

「どうせ独り身だ。キミも好きなだけいたらいいさ」

コクっと頷く。
髪間からのぞくうなじが、桃色に紅潮していた。

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